KOMAKINO-Days〔ショートストーリー〕3
多分、海南島の市場で見たあの大きな乾燥ナマコみたいになっているんだろう。
結局、部品を取り寄せて本格的にやらないと直らない重傷の水漏れみたいだ。
それでも汗だくになって診てくれた彼に冷蔵庫からノンアルコールのゲステルを一本。
何か悪いことでもした? でも、こんな程度じゃ、あの時に比べればどうってことない。
俺の誕生日がもうじきやってくる。
あの時に比べれば。
部屋のダニ退治に悪戦苦闘の汗を流している自分に苦笑しながら、あの時は毎日抱いていた切り裂かれるような感情が少しずつ薄れていることに気が付いた。
時間が経ったということなのだろう。だから、今 この風と空の星、そしてAtmosphereがとても気持ちいい。
【エピローグ】
俺が奴らと一緒に酒を飲むなんて必要は全くない。テニスも車も煙草もやらない奴は敗北者、ってわけかい。
俺はコンプレックスを肴にもっと飲めるんだからな。
所詮、三角形の積み木の上には丸い積み木や四角い積み木は乗っけられないもんな。
膝を抱えたままアルマジロの甲羅にくるまっていると、とても気持ちいいんだ、誰とも顔を合わせずに済むしね。
「何故、何故なの? 何故、あなたはそんなにマイナス志向の考え方しかできないの?」炉端焼屋の真ん中で頬に受けた平手打ちは、かなり効いた。それなのに。俺は曖昧に笑ってるしかなかった。
ただ、曖昧に口を歪めたまま。高層ビルのおかげでどうにか朝日を浴びずに夜を越すことができた。
そんなこともあってから、もう1年になる。
土曜の午後、俺は自主上映館にアンディウォホールのドキュメンタリー映画を観に行った。
ブロンディの「ハートオヴグラス」が画面から飛び出して来る。我に還ると同時に鳥肌が立つ。
隣の席には確かに誰かが座っている。
夜はいつものPerkey Patへ。ショットバーなのに週替わりでビールを出してくれるのはマスターのわがままに他ならない。通う口実ができた。
今週は、まるでシャンパンのようなボトルのベルギービール。
二人で空けるにはちょうど良いサイズだ。名前は、ファロペルタトーレ、と言う。
甘酸っぱくて口当たりが良いものだから、つい飲み過ぎてしまう。
隣で絡み始めたのは2本目が3分の1くらいになった頃だった。
「ねえ、どんな気持ちなの。一番好きな人が死んだのを聞いた時って。
例えば車の事故で、一緒に乗っていた自分は助かって、一番すきな人が死んだ時って一体どんな気持ちなの」
隣は自制心を失っていた。
前の恋人と、恋人の妹の死を引きずっている感情。それでいて隣でこうやってファロを飲んでいる。
道徳心?
マスターが声を掛けてくれる。
「お客さん、さっきから一人で飲むには多すぎるんじゃないですか?」
アメリカ進出のきっかけとなる全米ツアーの初日を目前に自殺したイアンカーティスがヴォーカルを務めるジョイディヴィジョンの一番売れたシングルは
Love will Tear Us Apart。その曲より好きなのがAtmosphereだ。
気が付けば ここはKOMAKINO Days。
嫌いだ、大嫌いだと言って逃げていても何も始まらない。
俺の好きな曲はジョイディヴィジョンのKOMAKINO、そこに話を戻そう。
[「KOMAKINO-Days」1990(2006Remix)]