から
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「残ったのは陳腐な言い訳と後悔の言葉だけ」 

そのちっぽけな島の周回道路が滑走路の一部になっているなんて
何も知らない僕はいつの間にか滑走路と気づかず歩いていた


やがてエンジン音が聞こえてきたと思うとどんどん大きくなってく

プロペラ機がこちらに向きを変え始めた


スゲーなこれは近くで見れていいや と呑気にカメラのシャッターを切ってた

ファインダーには猛ダッシュして来る血相を変えた職員

手で首を切るジェスチャーをしながら

「お前、死にたいか!」

爆音の中ようやく聞き取れ

はっと事の重大さに気づき走って滑走路を離れる



ほんとに死ぬとこだった 動悸が止まらない

後で地図を確認したら宿から3kmほど先に 確かに「AERODROME」と記されている。

まぎれもなく数日前に降り立った空港である


翌日、同じ周回道路を歩く
道端で大きな豚が横たわって行き倒れてる
昨夜の冷え込みで凍死したのだろう


思わず昨日の光景がフラッシュバック  足取りも重く歩き続ける


背後からクラクション


「はい!」


見覚えのある顔だと思ったら昨日の職員 でもフィッシャマーンズだぜ

「今日は非番。すれ違ったら お前だったよ、何処へ?」

関わりたくないし

「もう滑走路には行きませんから」
とだけ言って立ち去ろうとすると


「それがいい」
そう言いながらドアを開けてくる

「案内するよ、島」

頼んでないし


案内してくれるのは有り難いけど どうも釈然としないものがあった


「お名前は?」

「ハナ。」


「はい?」


語気を荒め
「ハナ!」

車を止めダッシュボードの紙切れに走り書き

“Hannah”

「あぁー、ハンナー、、、」

僕のイントネーションが気に入らなかったらしく
鼻を膨らませ不機嫌そうに
「だからハンナーじゃなくてハナ。空軍通信部隊所属」

そこまで訊いちゃいないけど…



「ここは島の宝。だけどもうすぐ墓場」

良質のピート、つまり泥炭の採掘場なのだけど
それにも際限ってものがある  紛れもない化石燃料なのだ

麦芽を乾燥させる燃料に使われるピートのおかげで
燻煙の香りが麦芽に染み込んで美味なるモルトができあがるのだけど

そして古びた砲台
写真撮ってやるから砲台に登ってみろと言う

僕は兵器が嫌いだと言いかけたけど止めといた

命の恩人なのだし


少し滅入り気味の僕を察してか
「疲れた、少し休憩」


そう言ってハンドルを切った先の建物には MOTELと書いてある。
僕は、いわゆる「連れ込み」のイメージしか持ち合わせてなく

でも今で言うところのラブホとは全然雰囲気違うなと
当たり前ながら感心することしきり


部屋に入り簡素なセミダブルにダイビングするハナ

そのまま仰向けに手を頭の後ろに組みじっと天井を見つめてる

僕は所在なく端に座っていた



不意に後ろから肩を抱えられそのまま背中に覆いかぶさってきた

「今日、疲れたな」

「うん」

そう言ったまま一体何分そのまま固まってたんだろうか

もしかしたら何十分…微動だにできなかった

そして
「行くよ」


また車を走らせる

「お前、いくつ?」

「19、あーそう明日で20です」


しばらく間が空いて
「じゃ今晩、宿に迎え行くから」


少し微睡んだら夕方になった

宿の外に出てみる  昼間とは違う車がやって来る

それから5分後、撲は見ず知らずの島民に囲まれトラックの荷台で揺られてた。

着いたのは「the triton」というパブ

こんなクソ寒い島によく言うぜ
とは口が裂けても言えず


週末のパーティに招待してくれたようだ


そこで僕は知った

ビールは常温で飲むものだと

少なくともこの島、この国では そしてそれはビールとは呼ばない


「地下にあるタンクのエールをパイプ越しにカウンターから引っ張り上げるんだ」
指差した先にはサーバーのレバー

は、、、それでドラフトって言うんだ 今まで使い方間違ってたよ


ハナは好物だというソフトシェルクラブを口に運びながら

「もちろん軍隊は」

結構そういうのは顔に出るみたいだ
いくら通信部隊とは言え軍人に変わりはない
そんなに親しくなっていいのかお前。

そんな僕を見透かしてか
「守るため」

「殺す為じゃない」
語気を強くして自分に言い聞かせるように


それはわかってますと言いたかったけど口から出なかった

周りは、まさに「The Sailor's Hornpipe」の世界
皆、呑んだくれ千鳥足

「20歳の誕生日、たった独りで宿の部屋、なんてことにならなくて
 こんな大騒ぎの夜になるなんて。」

「それがいいかな」
少し表情が和らいだ


帰り際にハナの友達から握手を求められた。
何気なく応じると、手に小さく丸められた紙幣が握らされていた。

「これね、島の習慣。私と私の友達から貴方に。
この島に来る人は皆、幸福を願ってこうやって贈られるもの」


外にハナが待っている。



朝、ハナの部屋で目が覚める


「軍人がこういうのって変?」

フィッシャーマンズの袖を通しながら呟く

ハナは思った以上に華奢で、
だから厚手のフィッシャーマンズなのかと改めて思う

そしてその表情は心細く物憂げなで昨日までとは全く違う


しまった、また顔に出て


「名前ね、Hannahってジャンヌやジョアンナ、ヨハンナと仲間。
 恩恵とか恵みが語源なんだけど、おかしいでしょ軍人なのに」

何も応えられない

「たとえ武器を投げ出して 投降して飢えを逃れても
 指を切り取られ 腕をもがれたとしても」

ため息混じりに続ける
「ありふれた弱音を吐いて 怯えた日々を過ごすだけだと思う
 それでも曖昧な微笑みを浮かべ 歪んだ空を仰ぐつもりなのね」

独り言のように話し続けるハナ

「生きる資格 というものを教えてほしい
 生きる、何故? 意味は? 何のために、どうして」

やりきれない

「偽りの微笑みと“正直”さ とか
 隠された悪意の“ひたむき”さ とか
 もうたくさん
 おかしいよね軍人なのに」

諦観したような表情を見るのが辛い


Hannah、ジャンヌと仲間だって知らなかったよ

ハナ - 預言者サムエルの母。
ハナ・スネル - 男装し性別を偽って兵士となったイングランドの女性。
ハナ・スミス - 長寿世界一であったイギリス人女性。
ハナ・ヘッヒ - ドイツのダダイスト。
ハナ・ライチュ - ドイツの女性パイロット。
ハナ・リデル - イギリスの宣教師。
そしてジャンヌ・ダルク



結局、自分の思ってることも釈然としないことも
そんなもん抜きにして ただ愛おしいってことも
何一つ伝えられなかった

...ということさえも言葉にできず呑み込んでしまう


空港には軍服に戻ったハナが見送りに来てくれた
あの時とっても愛おしいと思った表情と同じ人とは思えないほどで

但し

摘み取ったばかりの馨しいシロツメクサで編んだネックレスを手に。
「お前、もうどうしようもないくらい途方に暮れ果てた顔してた。
 そして、とてもシャイで。
 でも、もうそんなことない。 これから色々な人と出会っていく、それがいい」


昨夜の答えだと思った。


あの昼間、寒さで行き倒れた野豚が横たわっていた、
その脇を僕は一体どんな情けない顔して歩いてたんだろう。


昨夜、うわ言のようにハナが呟いていた

このふらついた心に 
華奢な身体が役立つなら

役に立つなら

テーマ: ショート・ストーリー

ジャンル: 小説・文学

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